ひろしせんせーのひとりごと。

44歳の脱サラ保育士ひろしせんせーが書いています。

保育ソーシャルワーカーへの道(提案編)

2022年5月現在、保育ソーシャルワーカーはすでに導入が進められている。

 

厚生労働省の令和2年度予算には「保育所における要保護児童等対応推進事業」として計上されており、この中の「地域連携推進員(仮称)」が保育ソーシャルワーカーを指している。令和2年度資料の事業のイメージでは基幹保育所が他の保育所へ巡回指導をする形となっている。

令和2年度保育関係予算の概要(p39に要支援児童等対応推進事業【新規】)

https://www.mhlw.go.jp/content/000587255.pdf

令和3年度保育関係予算概算要求資料(p21に要支援児童等対応推進事業)

https://www.mhlw.go.jp/content/000677014.pdf

 

なお、地域連携推進員(仮称)の業務としては主に以下の4点が挙げられている。

①保護者への相談支援

②市町村や関係機関と連携し、子どもの状況の把握・共有及び専門機関との関係性の構築、個別ケース検討会議への参加

③他の保育所等への巡回支援

④地域の子育て支援や虐待予防の取組等

 

これに従い、滋賀県では令和2年度にいち早く導入を開始している。「滋賀県保育所等支援事業費補助金交付要綱」がそれに当たると思われるが、実施要綱がネット上には見当たらないため具体的な取組については資料がない。

虐待や貧困に素早く対応 保育所「専門スタッフ」配置拡充へ、滋賀県

 

また、令和3年度からは東京都中野区でも「保育ソーシャルワーク事業」が導入された。資料を見ると発達支援寄りの内容のようである。中野区は児童相談所の設置を目指しているため、今後児童相談所設置に併せて制度の整理を行う方向性かもしれない。

令和3年度予算で検討中の主な取組(案)について(p3の項目6)

https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/dept/102000/d029341_d/fil/R3omonatorikumiann.pdf

 

では、このように保育ソーシャルワークにスポットが当たるのはなぜか。

 

保育所の運営指針として国が定めたもので、法的拘束力もあるものに「保育所保育指針」がある。保育所保育指針は平成30年度に改定が行われているが、この改定には子どもの育ちや子育てに関わる社会の変化が背景としてある。

厚生労働省による「保育所保育指針解説」には以下のように記されている。「乳幼児と触れ合う経験が乏しいまま親になる人も増えてきている一方で、身近な人々から子育てに対する協力や助言を得られにくい状況に置かれている家庭も多いことなどが指摘」されており、「子育てに対する不安や負担感、孤立感を抱く人は依然として少なくない。こうした中、児童虐待の相談対応件数も増加しており、大きな社会問題となっている」。

また、「保護者に対する支援」について、「保護者と連携して子どもの育ちを支えるという視点をもち、子どもの育ちを保護者と共に喜び合うことを重視して支援を行うとともに、地域で子育て支援に携わる他の機関や団体など様々な社会資源との連携や協働を強めていくことが求められている」と方向性を定めている。

具体的な記載箇所を例示すると、第1章総則の保育所の役割において、「保育所は、その目的を達成するために、保育に関する専門性を有する職員が、家庭との緊密な連携の下に(後略)」と書かれており、この家庭との連携について解説では「保育所における保育は、保護者と共に子どもを育てる営みであり、子どもの一日を通した生活を視野に入れ、保護者の気持ちに寄り添いながら家庭との連携を密にして行わなければならない。保育において乳幼児期の子どもの育ちを支えるとともに、保護者の養育する姿勢や力が発揮されるよう、保育所の特性を生かした支援が求められる」としている。

 

保育所保育指針について長くなったが、先ほども述べたように、指針の改定の背景には子育て環境の多様化がある。子育てには食事などの家事を切り離すことはできず、保育所を利用する保護者の大部分は就労中でもあるため、子育て環境とは言い換えれば、生活様式や働き方のことでもある。したがって世代間別居や地域とのつながりの希薄さだけではなく。インターネットの普及による働き方の変化や、並行して進む住まいや食生活の変化が、子育て環境の多様化に拍車をかけている。

保育指針でも述べている通り、保育所の保育は家庭との連携を密に行わなければならないが、連携のためには多様化した子育て環境(働き方や生活環境)を柔軟に捉える必要があり、連携の方法は一人ひとりの子ども、一つ一つの家庭によって異なる。また「保護者の養育する姿勢や力が発揮」されるよう支援するためには、アプローチの仕方も変化させなければならない。

 

また、社会で生きる保護者のストレスは確実に子どもの成長に影響を及ぼす。ストレスは常に弱い部分にストレス症状となって現れるが、家庭の中でも同様で、保護者が様々なストレスを抱えると、それが何らかの形(子どもと遊ぶ時間が減ったり、頭ごなしに𠮟りつけたり)で子どもへ影響し、成長や性格形成を阻害する因子となる。保護者支援においては、この保護者のストレスを的確に捉えて支援する必要があるが、先ほどから述べている通り、ストレス要因は多様化している。

私は子育て力の最大化には、主に「保護者自身の健康」「生活環境」「経済基盤」の3点が十分に満足している状態にあることが前提であると考える。どれか一つでも不満足な状態だと、意識、気力、労力がそちらに割かれ、十分な子育て力が発揮できない。前段のストレスに置き換えると、3点におけるストレスが子どもに向かうと言い換えることができる。「保護者の養育する姿勢や力が発揮」されるような支援には、こうした背景に対するアプローチが必要である。

 

では保育士にこうしたアプローチが可能だろうか。保育士の専門性は子どもの成長発達に関することである。保育士になるための専攻科目には子育てに関わる制度についての知識はあるものの、ソーシャルワークに関する項目は入っておらず、保護者を支援するための制度利用やアプローチの方法などは学ぶ機会がない。加えて保育士としての業務の中心は子どもと接する保育であって、学校等で学習した制度に関する知識はほとんど使う機会がないため、新しい子育て支援に関する情報には疎いのが現状である。本来なら保育園入所に関する手続きくらいは把握しておいて然るべきであるが、それすらも充分に把握していないケースも多い。

そうであるならば、保健に関しては看護師、給食に関しては栄養士や調理師が担っているように、保護者支援に関しても専門職に分業するべきではないか。日本の高齢者支援制度に目を向けると、地域の高齢者支援の中枢を担う「地域包括支援センター」には、法律上3つの職種の配置が義務付けられている。介護福祉士保健師社会福祉士がそれであり、言うまでもなく社会福祉士が地域の他職種を繋ぐ役割を期待されている。子どもと高齢者は異なる制度ではあるが、他者の支援がなければ自立できない存在を支援する福祉制度と考えれば、共通する部分は多い。介護保険制度の開始によって多様な経営母体が参入し、まちの至る所に介護保険事業所が濫立している状況は、駅周辺などに小規模保育事業所が濫立している現在の保育業界に似ているともいえる。また、ともに厚生労働省の管轄であることを考えれば、日本の福祉の進むべき方向性は同じであることも容易に想像できる。だとするならば、保育園における配置すべき職種にも社会福祉士ソーシャルワーカー)を加えるべきではないか。

 

さて、ここまで保育ソーシャルワーカーを配置すべき理由について書いてきたが、では具体的に保育ソーシャルワーカーには何を期待されるのか。「期待されること編」へ続く。