ひろしせんせーのひとりごと。

44歳の脱サラ保育士ひろしせんせーが書いています。

保育士の付加価値~絵本テラーへの道

前文

私は40歳を過ぎて保育士となりました。周りの保育士を見ると、若い保育士は若さがあり、ベテラン保育士には経験があります。それに比べて私には若さも経験もありません。どうしたら他の保育士と肩を並べることができるでしょう。保育ソーシャルワーカーとしての知識と経験は保育士にはないものですが、日々の保育の中では必要とされないスキルであるため軽視されがちです。保育士に一目置かれて存在感を出すためにはどうしたらいいか。その答えは「付加価値」です。

実際に保育園で働いていると、色々な保育士がいることがわかります。絵の上手い保育士、音楽ができる保育士、パソコンが得意な保育士、虫に詳しい保育士や植物に詳しい保育士もいます。保育園という狭い社会だからこそ、それらの個性は保育に活かされます。個性が保育に活かされると、その保育士は保育園に欠かせない存在となります。これが「付加価値」です。保育士が保育以外の得意分野を持つこと、それがこれからの保育士に、特に私のような中年中途保育士には必要なのです

 

そこで私が目指すのがタイトルにある「絵本テラー」です。絵本テラーという名前は私が勝手に名付けました。英語の使い方として正しいのかどうかはわかりませんが、ただ絵本を読み聞かせるだけではなく、絵本の世界観を体験させる語り部となることを想定して命名しました。今回は絵本テラーとなるために身に着けた知識のまとめです。

 

絵本を読み聞かせるということ

まず、絵本テラーとして言いたいのは、絵本の読み聞かせとは「体験」であるということ。誰が絵本を読むか、どこで読んだか、いつ読んだか、どんな匂いや温もりのもとで読んだか、ページをめくる間にどんな言葉かけをしたか、読み終わってからどんな話をし何をしたか。絵本を読みきかせる言葉や環境は一回一回で異なります。読み聞かせてもらった子どもにとってはその一回一回が異なる体験なのです。だから、単に絵本のストーリーを読むだけではなく、どんな環境で、どんな言葉かけをして、どんな反応を楽しむか。そこまでの一連の「体験」が絵本を読み聞かせるということなのです。

 

絵本の効果

子育てにおいて絵本を読むことにはどんなメリットがあるのでしょうか。メリットがあるからするというものでもありませんし、何事もバランスが大事ですから、絵本は万能薬ではありませんが、絵本を読み聞かせることの効果についてまとめておきます。

1 親子の愛着形成

私は絵本を読み聞かせる最大の効果は、愛着形成に役立つことだと思います。愛着は親子だけではなく、広く世話をする人と形成されると言われています。ですが、多くの子どもが人生を長くともにするのが親なので、ここでは親子の愛着形成とします。絵本を通じた声掛けや肌のふれあいは子どもに安心感を与えます。親のそばにいることで感じる安心感とはすなわち「愛着」であり、愛着が十分育っていると探索活動(親のそばを離れて遊ぶ経験)を活発に行い、様々な経験を積むことが出来るようになります。探索活動は赤ちゃんの頃だけでなく、大きくなってからも続くことです。また、乳児期に十分な愛着を形成した子どもは「自分は大切な存在」という感覚を持ち、自己肯定感が育まれます。自己肯定感の強い子は挫折に強く、また人生を楽しむ力も強くなります。

2 情緒の成長

子どもが絵本の読み聞かせをしてもらっているときは、脳の情緒面をつかさどる部分が活発になっているという研究があります。絵本の登場人物の喜怒哀楽を疑似体験ををすることで、子ども自身の感情が豊かになっていきます。楽しいときには笑い、悲しいときには泣く、感情が豊かであれば人生に深みが生まれるだけでなく、他者の感情にも敏感になることが出来ます。私は「やさしさ」とは、相手の気持ちが心から理解できる人のことを言うと思います。絵本を読むことで「やさしい子になる」と言ってもいいのではないでしょうか。

3 言語表現の成長

絵本をたくさん読むことで、様々な言葉を覚えることが出来ます。特に2歳ごろは語彙爆発といって、たくさん言葉を覚える時期です。日常会話では使わないような言葉が絵本に出てくることでどんどん言葉を吸収していきます。絵本を読んで「〇〇って何?」という質問に答えることでも語彙を獲得していきます。語彙力が多いと自分の気持ちをいろいろな言葉で表現できるようになります。「好き」と「嫌い」だけだった感情が、多様な言葉で表現できるようになり、楽しい、美味しい、気持ちいいなど、様々な感情を表現できるようになります。

4 想像力や集中力がつく

当たり前なので二つまとめて書いてしまいますが、絵本の世界観を疑似体験することで想像力がつき、成長するにつれて集中力もついて、だんだん長い本が楽しめるようになっていきます。想像力と集中力は時として反対の意味に使われることがありますが、想像は「創造」に繋がります。集中して想像の世界に身を置くことが出来ると、新しいものを創造する力に繋がります。目まぐるしく発展を遂げる現代にあって、他人と異なる発想ができる「創造力」は強い武器になるでしょう。

 

年齢ごとの絵本選び

1 ブックスタート

絵本はいつから読み聞かせればいいのでしょうか。よく聞く疑問です。

生まれたばかりの赤ちゃんの視力は0.01程度で、色もモノクロだといわれており、目の前の30cmくらいがぼんやり見えている程度です。ママやパパを見て笑ったような仕草をするのは、声や匂いに反応しているからです。だんだんと色の違いまで分かってくるのは4~5か月くらいです。このくらいの時期なら色の違いを楽しむことができるようになり、絵本の楽しみがわかり始めていると言えます。内容よりも絵が色彩豊かでシンプルなものを選びましょう。

「こんなに小さいのに絵本を読んでもわからないだろう」という考えが「いつから」という疑問の源でしょう。しかし絵本の効果でも書いたように、物語を読むだけが絵本の読み聞かせではありません。赤ちゃんと一緒に肌を寄せ合って読む「体験」が大切なのです。赤ちゃんに読み聞かせをしても、思ったような反応をしてくれることはほとんどないといっていいでしょう。絵本をパラパラめくったり、閉じてしまったり、時には舐めたり破いたりしてしまいます。しかしそれも「体験」です。食べるものではないと言っても0歳の子にはわかりませんから、舐めたり破いたりしてほしくない場合は、布やボードタイプの本を選びましょう。

2 1歳から2歳ごろ

内容を理解するのは2歳くらいになってからですが、1歳を過ぎるころからだんだんと「絵本を読むこと」に興味を持ってきます。「読んで」と絵本を持ってきたり、「絵本読むよ」というと嬉しそうに近寄ってきたりします。簡単なストーリーで、言葉のリズムが楽しいものや、仕掛け絵本も興味を引きます。絵本に出てくる食べ物を食べる真似をしたり、一緒に絵本に触れてみたりする体験をしながら読んであげる時期です。

2歳ごろになったら登場人物が少ない短めの絵本を選んであげましょう。絵本の効果でも書いたように、言葉が増える時期ですから、絵を見て「これは〇〇だね」とか、「このまえあそこにあったね」とか声をかけてあげると、現実世界とリンクしてより豊かなものとなっていきます。子どもと会話をしながらページをめくっていきましょう。

どの年齢でも通じて言えることですが、子どもは同じ絵本を何度も読んでとせがんできます。つい色々な絵本を読んでもらいたいと思ってしまいますが、ぜひ子どもが読んでほしいといったものは何度でも読んであげてもらいたいと思います。子どもの理解力では一度ではストーリーを完全に理解することが難しいだけではなく、一度読んだ絵本をもう一度読むことで、気持ちに余裕ができ、様々な気づきや反応が出てきます。またお気に入りのシーンを何度も見て安心感を得るという効果もあります。読み手の方も飽きてしまわないように、読み方に変化をつけるなどの工夫があってもいいと思います。

3 3歳以降

3歳からは絵本の好みや集中力にも個人差が大きくなってきますが、それはストーリーを理解し始めている証拠です。子どもの好みに合わせてたくさん読んであげるといいでしょう。もちろんたくさんの遊びに興味を持つ時期でもありますから、絵本に興味を持たなくなったからと言って残念に思う必要はありません。寝る前やお風呂の後など、時間を決めて読んであげると集中しやすく、子どもも喜ぶはずです。

4歳以降になると、次第に長い本も集中して聞けるようになっていきます。同時に、乳児の頃にやっていたような絵を見て声をかける必要はなくなります。子どもは頭の中で想像するようになります。だから読み方も少しずつ変えていく必要が出てきます。子どもに自由な想像力を発揮してもらうために、大げさに声色を変えて読むのではなく、敢えて淡々と、ゆっくりと、なるべく絵本に書いてある通りに読むようにします。絵本の物語の捉え方は一つではありません。自分の価値観や大人の見方を押し付けるのは、絵本の世界観を狭めてしまうことに繋がります。本を読んだ後は感想を聞きたくなりますが、感想を求めること自体、大人の価値観ではないかと私は思います。大人だって良い本や映画を読んだり観たりした後は、余韻に浸りたいという人もいるはずです。子どもが自分から「〇〇だったね」と言ってきたら「そうだね」と共感しましょう。

 

読み方のコツ

年齢に合わせて読む絵本が変わっていくことを説明するとともに、読み方も変えていくと説明しましたが、具体的にどうやればいいのでしょうか。絵本テラーの真骨頂。絵本の読み方をまとめます。

1 乳児期の読み方

年齢ごとの絵本選びでも説明したように、乳児期にとっての絵本は玩具の一つです。それも周りの人とコミュニケーションを図る玩具です。絵本を通じて会話をしながら読むのがいいでしょう。乳児期は記憶を長く留めておくことができませんし、物の保存も理解していません。目の前にある絵がすべてです。絵を指さしながら読んだり、音に合わせて本を揺らしたりしながら、楽しく読みましょう。絵本の絵から食べ物をとりだして「パクッ」としたり、動物が出てきたら撫でてあげたり、あたかもそこに存在するかのようにしながら読むといいでしょう。

また、まだ言葉の意味も理解できない乳児期は、言葉のリズムを楽しむ時期です。「とんとん」や「じゃあじゃあ」といったリズムのよい言葉を楽しみます。ゆっくりとリズムよく、そして話しかけるように読んであげると良いでしょう。

絵本を絵本のまま読むことを推奨する人もいますが、私は乳児期は好きな言葉かけをしながら読んだ方がいいと思っています。何度も言いますが、この時期の絵本は親子の共通体験をするためのコミュニケーションツールです。親子の愛着形成や情緒、言語の獲得のためにも、たくさん言葉かけをしながら読んでもらいたいです。

2 幼児期の読み方

幼児期の方が読み方に迷う人や上手くできないと悩む人が多いと思います。そもそも文字を読むのが苦手という人もいるのではないでしょうか。

そんな人でもできるコツは「ゆっくり読む」ことです。私たち素人には落語家やテレビのナレーションのように滑らかに読むことはできません。どうしてもつっかえたり間違えたりしてしまうものです。だからゆっくりと読むことで、なるべく間違えを減らすようにするのです。幸いなことに、子どもは早く読むと内容をよく理解できません。ゆっくりと、一文ごとに間を取りながら読むことは、子どもに考えたり想像したりする時間を与えることになります。

また、幼児期は絵本を読みながら想像力を働かせます。登場人物の気持ちになり、絵本の世界に入り込みます。そのとき、大人の価値観や先入観で登場人物のキャラクターを作ってしまったらどうなるのでしょう?子どもがせっかく想像力を働かせているところを阻害することになってしまいます。絵本の世界は大人が考える以上に自由なのです。ですから、余計なアドリブなどは入れずに読んだ方が良いでしょう。

ただ、だからといってニュースの原稿を読むように淡々と読んでいては、子どもは飽きてしまいます。読み方に抑揚をつけて、感情や臨場感が伝わる読み方をする必要があります。そんな読み方は難しそうに思えますが、案外簡単な方法があります。それは自分の表情に出すということです。絵本には登場人物の絵があります。その登場人物と同じ表情で読んでみましょう。自分では意識せずとも、自然と読み方に抑揚が出てくるはずです。信じられないなら、家族の他の人にやってもらいましょう。普段子どもと遊ばないパパにやってもらうと、案外ハマって何冊も読むようになるかもしれませんよ。

 

あとがき

ここまで絵本テラーの持つべき基本的知識を書きましたが、最後に最も大切なことを書きます。絵本を読むのに一番大切なことは、「読み手が楽しむ」ということです。はじめに書いたように、絵本の読み聞かせは「体験」なのです。読み手が楽しんでいる気持ちは必ず子どもに通じますし、逆につまらなそうに読んでいれば、その気持ちも子どもに伝わります。

子どもと一緒に絵本を楽しむ。

それが絵本テラーへの第一歩だと思います。