ひろしせんせーのひとりごと。

44歳の脱サラ保育士ひろしせんせーが書いています。

保育ソーシャルワーカーへの道①

私が子育て支援の仕事に就いたのは26歳のときでした。

26歳の私は市役所に勤めていて、子育て支援関連の部署の、保育園と手当関係「以外」のことを担当する係に配属されました。要は保育園と児童手当以外の雑多なことをすべてやる部署だったわけで、担当が3人しかいませんでした。つまり当時の市役所レベルの子育て支援はその程度の扱いだったわけです。しかしヒラ職員だった私は、与えられた仕事をこなしていればよかったので、子育て支援の重要性だとか、これからの子育て支援だとかは考えもしませんでした。それから5年後、私は同じ部署で係長に昇進し、ようやく自分の抱えている仕事の重要さを知るのでした。

 

まず、私の担当は保育園と手当関係以外の「雑多なこと」と一括りにできない仕事でした。26歳当時(もう20年近く前!)に配属されたときは児童相談件数は年間通じて数えられる程度でしたが、5年間で数倍に膨れ上がりました。現在では相談記録はシステム化していますが、当時はワードやエクセルで相談記録を整理していました。(その程度しか相談件数がなかったと言えます。)そのほかに、児童館を含む子育て支援拠点の管理運営支援や次世代育成支援事業計画の進行管理も担っていましたから、めちゃくちゃ幅広い仕事を3人でこなしていたわけです。

 

私が配属されたころは、一人の職員が児童虐待対応を専門に行っていました。が、私が係長になるころには一人では対応しきれず、係長の私も常に虐待対応に追われている状況でした。さらに5年もすると、もう係の一部だけでは処理しきれず、児童虐待対応だけの係が独立しました。児童虐待対応が増加し続ける現状を目の当たりにした私は、このまま件数が増加し続けた場合、対応する職員を増やし続けることになると感じました。私のいた職場は小さな役所でしたから、職員を増やすのには限界がある。ではどうすればいいか。

 

児童虐待に対しては2種類のアプローチがあります。

「予防」と「対応」です。児童虐待が起きる前に「予防」する方法と、起きてから「対応」する方法です。私はそれまでは「対応」ばかりしていて、「予防」に力を注いでこなかったことに気づきました。ましてや「対応」については児童相談所という都道府県の組織があります。つまりそれは市区町村レベルは予防中心のアプローチをしなさいということをなのです。

 

「予防」とは何をすることでしょうか。

私は児童虐待はある日突然発生するものではないと考えています。母親が何かのきっかけで子どもに手をあげてしまったとしても、そこに至るまでに母親には育児負担や不安、孤立感があったはずです。暴力的な父親が子どもを死に至らしめるケースも、そこに至るまでにたくさんの兆候を見せています。また虐待を行ってしまった父親や母親の生育歴や現在の生活状況を見ると、虐待リスクが高かったことが判明します。虐待が起こる前の段階で、そのリスクを拾い上げ、支援していくことが「予防」になります。

 

では、虐待リスクを拾い上げることのできる場面はどこでしょうか。子どもの成長過程を時系列を追って見ていくと、色々な場面があることがわかります。

まず、妊娠した時は産婦人科で妊娠が判明します。その後、日本で子どもを産むには「母子健康手帳」を発行してもらう必要があります。つまり産婦人科の健診と母子手帳の発行は誰しもが通る道です。この時点で母親となる妊婦の生育歴や生活環境を捉えておけば、出産前に虐待リスクを拾い上げることができます。

※もちろん、誰にも知られずに出産して遺棄してしまうケースもあります。赤ちゃんポストはこれに対応する方法なのですが、そもそも産婦人科で妊娠が判明した際に後追いができていれば、もう少し件数は減るのではないかなと思います。流産や中絶、分娩をしない婦人科や里帰り出産や自宅分娩など、出産までには色々な経緯を経るため、後を追っていくのは難しいのかもしれません。

 

無事に出産したら、定期的に専門職の目が入ります。

出産後は5日間ほど入院をします。入院するということは色々なことが見える場面でもあります。母親は子育ての準備ができているか、精神的に安定しているか、父親は見舞いに来るか、見舞いに来た家族との関係性はどうか、おそらく病棟の看護師は虐待リスクに気づくことができるはずです。

その後、1か月健診で再度産婦人科を訪れます。赤ちゃんの様子とともに、親の疲れ具合なども見ることができます。また地域の保健師による新生児訪問があります。ここでも、自宅での育児環境とともに、親の疲労や育児手技の様子を見ることができます。抱っこの仕方がわからないとか、ソファで寝かせているとか、自宅に行ってみないとわからないリスクにも気が付くことができます。

この後は定期乳幼児健診があります。母子保健法上は1歳6か月児健診と3歳児健診が定められていますが、3~4か月や9~10か月児にも多くの地域で健診が行われています。乳幼児健診は大抵は保健所等に行って健診を受ける形になります。数年前から定期健診を未受診者には受診勧奨をすることになっており、自治体には未受診者の把握が義務付けられています。

また保育園には生後57日から預けることができます。実際には親の育児休暇終了にあわせて保育園申請をすることが多いわけなので、0歳から1歳で保育園の利用を開始する場合が多いです。保育園は当然ほとんど毎日通いますから、子どもの異常には敏感です。在宅で子育てをしている親子は数か月単位で様子を見ることになり、その間に変化があった場合には把握が難しいです。その点、保育園に入ってしまえば毎日子どもと親の様子を確認することができます。

3歳になると、保育園や幼稚園を利用する子の割合がぐんと上がり、ほとんど子が保育園や幼稚園を利用します。乳幼児健診が3歳で終わるのも、こうした背景があります。3歳児健診が終了したら保育園や幼稚園に相談してくださいということです。小中学校の年齢になると、義務教育ですのでほぼ100%の子が何らかの集団に属することになります。地域の教育委員会には集団に属していない子の把握をする義務があります。

 

このように、必ず親子に触れる機会に専門職がリスクを拾い上げていくことが児童虐待の予防になります。多くの自治体では母子手帳の発行を保健師が行ったり、産婦人科医療機関との連携を強めたりしていますが、現状、課題が2点あると思います。

②に続きます。

 

保育ソーシャルワーカーへの道(期待されること編)

保育園におけるソーシャルワーカー(保育ソーシャルワーカー)に期待される役割とは何か。

「提案編」で述べたように、ソーシャルワーカーの業務は大きく分けて、①保護者への相談支援と②関係機関との連携である。では、その2つが保育園運営のどのような場面で必要となるのか。具体的な場面を3点挙げる。

 

(1)児童虐待

厚生労働省の要支援児童等対応推進事業の対象である「要支援児童等」は児童福祉法に定義される要支援児童を指している。具体的には「保護者の養育を支援することが特に必要と認められる児童(第八項に規定する要保護児童に該当するものを除く。)」とあり、つまり虐待を受けて要保護児童になる手前の児童である。

児童虐待の類型は厚生労働省より4類型が示されているが、このうち身体的虐待と性的虐待については、発見次第加害保護者からの分離が必要となるため、地域の要保護児童対策担当部署(東京都特別区では児童相談所設置の有無によって通告先が異なる。2021.5現在、世田谷、江戸川、荒川、港区は児相設置済み。また政令指定都市には児相設置義務がある。児相設置済みの自治体なら児相が通告先、児相未設置の特別区は子ども家庭支援センター、その他の自治体の多くは市町村の児童福祉所管部署が通告先。)に通告し、以降は指示に従うことになる。

一方、心理的虐待とネグレクトについては、虐待の確証と程度、それによる子どもへの影響の因果関係の立証が困難なため、関係機関との継続した連携が不可欠となる。ただし、継続した支援における児童相談所等と保育園の差とは、専門性以外にない。逆に、毎日子どもと保護者を見ることができる保育園のリアルでスピード感のある対応が可能である点は、児童相談所等にはない特長である。つまり専門性を活かした保護者支援を児童相談所等が担当し、日々の保護者の様子やそれに伴う支援については保育園が行い、互いの情報連携をすることで適切な対応が可能である。

その際、保育所において留意すべきは、児童相談所等が行う専門的支援との連携であり、互いの機関において心理的虐待やネグレクトに至る原因について共有し、その原因を解消するための支援を行うこと、つまり児童虐待予防のためにすべての機関が同じ方向性で支援を行うことである。そのためには、保育園に一定度の専門的知識が必要であることは言うまでもなく、保育ソーシャルワーカーには関係機関との連携を行う際の専門性も求められる。

 

(2)発達支援

 保育園における子どもの障害児支援への繋げ方はおおむね次のとおりである。

①園生活における「気になる子」の発見。②保護者への説明。③心理士等の見立て。④保護者へ発達支援機関の提案。⑤発達支援機関へ連絡調整。

保護者への説明を丁寧に時間をかけて行うことは大原則である。保育士の見立てで障害支援ができるわけでも診断がつくわけでもない。しかし保護者には子どもの現状を正しく伝え、理解を得る必要がある。そのためには、なるべく早い段階で少しずつ情報を与えていかなければ、定期健診等の大切な時期に保護者に一度に情報を詰め込むことになり、反発を招いて余計に時間をかけることになる。よって、保護者には「気になる」と判断した段階で少しずつ情報を与えていく必要がある。

多くの場合、保育園で心理士に定期的にアドバイスをもらっていたり、自治体から巡回指導が入っていたりする。心理士は児童発達の専門職であり、多くの場合、療育機関での臨床経験もあるため、心理士に療育等の提案をすべきかアドバイスを受けるべきである。その際に重要なのは、エピソードを記録しておくことである。児童発達の専門職とはいえ、数時間の様子を見ただけで判断するのは難しい。そこで、より多くの情報をもって判断してもらえるよう、保育士の主観をなるべく排除した客観的なエピソードを集めておき、併せて判断してもらえるように準備しておくことが大切である。

保護者の理解が得られて、発達支援機関に相談に行くことになったら、ようやくソーシャルワークのスタートラインである。保育園では「保健所へ相談に行く」イコール「療育に繋がる」と期待を持ってしまうことも多いが、むしろ何の情報もなく来た相談者にその場で療育を勧めることなど常識的にあり得ないと考えるべきだろう。保育園が保護者に信頼関係を築きあげてきたのと同様に、発達支援機関も保護者と信頼関係を築いていく必要がある。ただ、その時間も子どもは成長していく。もっと早く療育を受けられないか。私はその最短ルートは保育園による相談の伴走だと考える。

記念日においしい店でディナーをしたいと考える。そこで「おいしいと評判」の店を探そうとする。人によってはネットで、人によっては友達に聞いて店を探すはずである。友達に聞いて店を探すとしたら、グルメで色々な店を知っている人や、自分の好みをよく理解している友達の意見を参考にするはずである。つまりお店のことと自分のことをよく理解している(=信頼できる)人の意見によって、お店の信頼度が上がると言える。これを保護者と保育園、発達支援機関に当てはめると、保護者は保育園(信頼できる人)の意見があれば、発達支援施設(お店)の信頼度を上がるということになる。保育園が発達支援機関と連携しながら保護者へ説明することで、療育への進み方は全くスピード感が異なると考える。

また療育がスタートしてからも保育園との連携は不可欠である。療育機関では個別支援計画という、個人に併せた計画を立案し、それに沿った療育を実施する。障害特性は一人ひとり異なっている上、療育に通うことで急激に改善するものではない。特性を本人や家族、周囲の人が理解し、その子が生活しやすいようにするのが療育の基本である。とするならば、療育で行っていることや目標を保育園が共有しなければ、本人にとって混乱するだけで、よりよい効果が現れない。療育機関と保育園を併用する場合、必ず両社は連携しなければならないが、保育園にソーシャルワーカーが配置されていない現状では、療育側からの提案がなければ連携できないのだ。

 

(3)生活支援

「提案編」において、子育て力の最大化のためには「保護者の健康」「生活環境」「経済基盤」の満足が必要と述べた。しかし、現実的には保護者が子どもに関わること以外のことに注意を向けなければならないことは多い。多くの場合、子どもの成長発達に影響を与えるほどではないが、子どもにストレスを与えることは少なくはない。そしてその要因は離婚、ひとり親、失職、介護、きょうだい関係など、多様化している。これらは保育園での相談で解決するものではないが、保護者が安心できなければ子どもへのストレスは続いていき、成長発達を阻害する恐れもある。したがって保育園で行わなければならない支援は、適切な機関の紹介である。適切な機関を紹介し、解決の糸口が見えてくると、保護者は安心して子どもと向き合えることになる。そのためには、必要に応じて連絡調整や同行支援も行う必要がある。

 

(4)職場環境や職員のケア

 期待される役割として、最後に職員研修や職員ケアを挙げる。

ソーシャルワーカーの活動範囲は浅くても広くほど良い。職員の人権教育はもちろん、保護者対応や子育てに関する制度についても研修をすることができよう。また、ソーシャルワーカーは主に保育ではなく保護者支援を行う立場から、保護者から見た客観的意見を述べるできるはずであり、保育園運営において一つの意見として意義があると考える。

また、保育園職員も保護者同様、相談を必要とする職員が発生するのは当然である。保育園は、複数の園を経営する大手法人も存在するが、基本的には十数人から数十人の小さな組織で日々運営されており、職員が長期間抜けるのは運営する上でダメージとなる。メンタルヘルスは看護師の領域として、親の介護や小中学生の子どもの相談、簡単なファイナンシャルプランまではソーシャルワーカーの領域と言える。

 

児童虐待の発生率についてはデータがないが、私の経験上、支援の必要な家庭の発生率は1~3%程度である。また、発達障害の有病率はおおむね8~9%と言われている。(厚生労働省「改正発達障害者支援法資料」)両者には重複する家庭もあり、また虐待家庭の入園には児童相談所等が関与し、入園先を行政直営園にすることもあることから、保育ソーシャルワーカーの対象児童はおよそ10%以下と言える。100名定員の大規模な保育園でも数名程度、家庭数ならさらに絞られることになる。高齢者における居宅ケアマネジャーの配置基準は35人に1人となっており、ケースワークを行う基準としては30件程度が適切と考えられている。そう考えると、保育ソーシャルワーカーが1施設で活動するには件数が少なすぎることになる。

そのため、要支援児童等対応推進事業では基幹保育所が巡回することになっているが、私は以下の2点により巡回方式では実効性が乏しいと考える。

1点目は、連携についての課題である。上記の計算からすると、在園児数500人程度を対象とすれば保育ソーシャルワーカー1名分の仕事量として適切と言うことにとなる。2020年度の全国の保育所等利用児童数は297万人。保育所等の数は(認定こども園や小規模保育事業所も含まれているが)全国で37,652所。1所平均78人と考えると、在園児500人では6~7所となる。虐待児童には入所施設に偏りがあることを考えても、巡回施設数が増えれば物理的に時間がかかることから、対象施設数は10所が限度だろう。

東京都練馬区だけでも入所児童数は1万9000人以上おり、保育ソーシャルワーカー1人につき在園児童数500人を対象とした場合、38人必要となる。したがって行政施策として保育ソーシャルワーカーを配置するとなると、ただでさえ都道府県児相と市区町村間で二重構造となっている上にさらに1機関を増やすようなもので、効率的な連携の実現には程遠くなる。

2点目としては、保育ソーシャルワーカーが対保護者対応の前線に立つことができない点である。巡回型のソーシャルワーカーでは問題が発生した際にすぐに保護者対応を行うような即時性に欠ける。したがって自然と各園を巡回して園のソーシャルワークに対してコンサルテーションを行うことが仕事になる。直接保護者対応を行うのならまだしも、各園のソーシャルワークに対してコンサルテーションを行うには相当の経験値と専門性を有している必要がある。果たしてそのような人材がそう簡単に確保できるだろうか。

 

そのため、私は各園で保育ソーシャルワーカーを配置するべきと考える。各園に配置するとなると、上記のように数人に対して1人の配置となり、効率的ではない。そのため、同一法人で複数園を運営する母体の大きな園についてのみ、保育ソーシャルワーカー1人につき最大5施設500人程度の縛りを設けて複数園での併任を認める配置加算を設けるべきである。それだけでもかなりの園に独自にソーシャルワーカーを配置することができるはずである。

経営している園が1園のみという法人や小規模保育事業所運営法人については上記の配置加算はできないが、より多くの園で独自に配置することが理想的であるため、地域や業態に応じた柔軟な法整備が望まれる。

保育ソーシャルワーカーへの道(提案編)

2022年5月現在、保育ソーシャルワーカーはすでに導入が進められている。

 

厚生労働省の令和2年度予算には「保育所における要保護児童等対応推進事業」として計上されており、この中の「地域連携推進員(仮称)」が保育ソーシャルワーカーを指している。令和2年度資料の事業のイメージでは基幹保育所が他の保育所へ巡回指導をする形となっている。

令和2年度保育関係予算の概要(p39に要支援児童等対応推進事業【新規】)

https://www.mhlw.go.jp/content/000587255.pdf

令和3年度保育関係予算概算要求資料(p21に要支援児童等対応推進事業)

https://www.mhlw.go.jp/content/000677014.pdf

 

なお、地域連携推進員(仮称)の業務としては主に以下の4点が挙げられている。

①保護者への相談支援

②市町村や関係機関と連携し、子どもの状況の把握・共有及び専門機関との関係性の構築、個別ケース検討会議への参加

③他の保育所等への巡回支援

④地域の子育て支援や虐待予防の取組等

 

これに従い、滋賀県では令和2年度にいち早く導入を開始している。「滋賀県保育所等支援事業費補助金交付要綱」がそれに当たると思われるが、実施要綱がネット上には見当たらないため具体的な取組については資料がない。

虐待や貧困に素早く対応 保育所「専門スタッフ」配置拡充へ、滋賀県

 

また、令和3年度からは東京都中野区でも「保育ソーシャルワーク事業」が導入された。資料を見ると発達支援寄りの内容のようである。中野区は児童相談所の設置を目指しているため、今後児童相談所設置に併せて制度の整理を行う方向性かもしれない。

令和3年度予算で検討中の主な取組(案)について(p3の項目6)

https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/dept/102000/d029341_d/fil/R3omonatorikumiann.pdf

 

では、このように保育ソーシャルワークにスポットが当たるのはなぜか。

 

保育所の運営指針として国が定めたもので、法的拘束力もあるものに「保育所保育指針」がある。保育所保育指針は平成30年度に改定が行われているが、この改定には子どもの育ちや子育てに関わる社会の変化が背景としてある。

厚生労働省による「保育所保育指針解説」には以下のように記されている。「乳幼児と触れ合う経験が乏しいまま親になる人も増えてきている一方で、身近な人々から子育てに対する協力や助言を得られにくい状況に置かれている家庭も多いことなどが指摘」されており、「子育てに対する不安や負担感、孤立感を抱く人は依然として少なくない。こうした中、児童虐待の相談対応件数も増加しており、大きな社会問題となっている」。

また、「保護者に対する支援」について、「保護者と連携して子どもの育ちを支えるという視点をもち、子どもの育ちを保護者と共に喜び合うことを重視して支援を行うとともに、地域で子育て支援に携わる他の機関や団体など様々な社会資源との連携や協働を強めていくことが求められている」と方向性を定めている。

具体的な記載箇所を例示すると、第1章総則の保育所の役割において、「保育所は、その目的を達成するために、保育に関する専門性を有する職員が、家庭との緊密な連携の下に(後略)」と書かれており、この家庭との連携について解説では「保育所における保育は、保護者と共に子どもを育てる営みであり、子どもの一日を通した生活を視野に入れ、保護者の気持ちに寄り添いながら家庭との連携を密にして行わなければならない。保育において乳幼児期の子どもの育ちを支えるとともに、保護者の養育する姿勢や力が発揮されるよう、保育所の特性を生かした支援が求められる」としている。

 

保育所保育指針について長くなったが、先ほども述べたように、指針の改定の背景には子育て環境の多様化がある。子育てには食事などの家事を切り離すことはできず、保育所を利用する保護者の大部分は就労中でもあるため、子育て環境とは言い換えれば、生活様式や働き方のことでもある。したがって世代間別居や地域とのつながりの希薄さだけではなく。インターネットの普及による働き方の変化や、並行して進む住まいや食生活の変化が、子育て環境の多様化に拍車をかけている。

保育指針でも述べている通り、保育所の保育は家庭との連携を密に行わなければならないが、連携のためには多様化した子育て環境(働き方や生活環境)を柔軟に捉える必要があり、連携の方法は一人ひとりの子ども、一つ一つの家庭によって異なる。また「保護者の養育する姿勢や力が発揮」されるよう支援するためには、アプローチの仕方も変化させなければならない。

 

また、社会で生きる保護者のストレスは確実に子どもの成長に影響を及ぼす。ストレスは常に弱い部分にストレス症状となって現れるが、家庭の中でも同様で、保護者が様々なストレスを抱えると、それが何らかの形(子どもと遊ぶ時間が減ったり、頭ごなしに𠮟りつけたり)で子どもへ影響し、成長や性格形成を阻害する因子となる。保護者支援においては、この保護者のストレスを的確に捉えて支援する必要があるが、先ほどから述べている通り、ストレス要因は多様化している。

私は子育て力の最大化には、主に「保護者自身の健康」「生活環境」「経済基盤」の3点が十分に満足している状態にあることが前提であると考える。どれか一つでも不満足な状態だと、意識、気力、労力がそちらに割かれ、十分な子育て力が発揮できない。前段のストレスに置き換えると、3点におけるストレスが子どもに向かうと言い換えることができる。「保護者の養育する姿勢や力が発揮」されるような支援には、こうした背景に対するアプローチが必要である。

 

では保育士にこうしたアプローチが可能だろうか。保育士の専門性は子どもの成長発達に関することである。保育士になるための専攻科目には子育てに関わる制度についての知識はあるものの、ソーシャルワークに関する項目は入っておらず、保護者を支援するための制度利用やアプローチの方法などは学ぶ機会がない。加えて保育士としての業務の中心は子どもと接する保育であって、学校等で学習した制度に関する知識はほとんど使う機会がないため、新しい子育て支援に関する情報には疎いのが現状である。本来なら保育園入所に関する手続きくらいは把握しておいて然るべきであるが、それすらも充分に把握していないケースも多い。

そうであるならば、保健に関しては看護師、給食に関しては栄養士や調理師が担っているように、保護者支援に関しても専門職に分業するべきではないか。日本の高齢者支援制度に目を向けると、地域の高齢者支援の中枢を担う「地域包括支援センター」には、法律上3つの職種の配置が義務付けられている。介護福祉士保健師社会福祉士がそれであり、言うまでもなく社会福祉士が地域の他職種を繋ぐ役割を期待されている。子どもと高齢者は異なる制度ではあるが、他者の支援がなければ自立できない存在を支援する福祉制度と考えれば、共通する部分は多い。介護保険制度の開始によって多様な経営母体が参入し、まちの至る所に介護保険事業所が濫立している状況は、駅周辺などに小規模保育事業所が濫立している現在の保育業界に似ているともいえる。また、ともに厚生労働省の管轄であることを考えれば、日本の福祉の進むべき方向性は同じであることも容易に想像できる。だとするならば、保育園における配置すべき職種にも社会福祉士ソーシャルワーカー)を加えるべきではないか。

 

さて、ここまで保育ソーシャルワーカーを配置すべき理由について書いてきたが、では具体的に保育ソーシャルワーカーには何を期待されるのか。「期待されること編」へ続く。

40歳おじさんの保育士資格挑戦⑨

40歳おじさんの保育士資格挑戦シリーズは9回目でついに最終回です。

 

12月の実技試験が終わると、最終結果は1月にはがきでやってきました。合否と、合格者には今後の手続きが書かれています。言語の試験で5秒ほど余らせてしまったとはいえ、大きな失敗はなかったはずなので絶対に合格すると思っていましたが、やはり圧着されたはがきをぺりぺりとめくる瞬間は緊張しました。

 

はがきには筆記も含めたすべての試験の得点と合否が書かれていました。実技試験も筆記試験同様合格点は6割(50点満点中30点)で、2科目中どちらか一方が不合格だと実技試験そのものが不合格となります。私の実技試験の得点は、造形37点、言語36点でした。30点が合格点なので一見ギリギリに見えますが、7割は超えているので予定通りと言えます。初めから100点をとるのではなく6割を超えるための勉強をしていたわけですから。

 

合格者は保育士登録をして初めて保育士となります。「保育士登録の手引き」に沿って登録申請をするわけですが、この手引きは登録事務処理センターから取り寄せなければなりません。合格者には合格通知と併せて送ってくれればいいんですが・・・。その年の4月から保育士として働きたい人は早めに手続きをしなければなりません。私の場合、その年の1月からすでに保育園で働いていたので絶対に必要というわけではありませんでしたが、早いに越したことはありませんでした。

 

手引きに従えば手続きは難しくありませんが、手数料の払い込みや戸籍抄本が必要だったりするので、ある程度時間がかかるかもしれません。早めに資格証が必要な場合は早めに手引きに目を通した方がいいでしょう。

 

1月中に申請書を郵送した私は、3月下旬に保育士証書が届きました。プラスチック素材の簡素な証書入れでしたし、当時の東京都知事はあまり好きではありませんでしたが、資格証書が手元に届くと「国家資格を手に入れたんだ!」という実感が湧いてきました。私はそれまで、地方公務員の経験はありましたが、履歴書に書ける資格は自動車免許しか持っておらず、結局転職の際には10年の経験は1つの資格にも適わないと身に染みて感じていました。それだけに、「国家」という後ろ盾を得たような、心強さを覚えました。

 

また、この後、私は社会福祉士資格に挑戦していきます。保育士資格挑戦を通じて、働きながら子育てしながらという自分の生活の中で、どう時間を見つけて、どこでどのように勉強するか、ということが見つけられたため、すんなりと社会福祉士の試験勉強に向かっていけたと思います。そして社会福祉士試験を終えた今でも、「ここでまとまった時間が取れる」、「ここで少し時間が取れる」といった感じで、自分のための時間管理ができるようになったと思います。なんとなく過ごしていたら失ってしまいがちな空き時間を有効に使えば、趣味に勉強に、自分の人間としての幅が広がっていくと思います。

 

長くなりましたが、これにて私の保育士資格挑戦は終わりです。

40歳おじさんの保育士資格挑戦⑧

保育士資格挑戦シリーズ8回目は実技試験後半戦です。

 

私の言語の試験時間は16時過ぎでした。最後が17時半頃に設定されていたようなので、だいぶ遅い方でした。11時頃に造形試験が終わって言語の試験まで5時間以上あるので、ぶらぶらして時間をつぶすというには時間がありすぎました。そこで、幸い私の家は十条から30~40分ほどなので、一度家に帰ってお昼を食べて、子どもと遊んで15時半頃に会場に戻ることにしました。試験中に一度自宅に帰るなど初めての経験だったので、緊張感が保てるか不安でしたが、否応なしに緊張はやってきました。

 

なお、試験の順番をどうやって決めているのかわかりません(もしかしたら私のように近所に住んでいる人ほど遅い時間を設定していたのか?)が、会場から遠くに住んでいる方は待ち時間をどう潰すか、試験科目で音楽を選択している人は空き時間に練習する場所などを考えておいた方がよさそうです。

 

言語試験は、まず食堂が受験者の待機場所でした。食堂の指定されたテーブルで待機し、テーブルごとに試験官が呼びに来て、試験会場へ案内されます。そして一際静かな試験会場のドアの前で、無言で順番を待つわけですが、このときが緊張のピークです。ジェットコースターがだんだん高いところに上がっていく感じですね。

 

緊張を和らげるには心理学で言うところの「コーピング」が必要です。試験の注意事項を頭の中でおさらいする「課題中心型コーピング」と、まったく無関係のことを考えてリラックスする「情緒中心型コーピング」のどちらかで緊張感を和らげましょう。私は課題中心型コーピングの方が合っているので、大きな声が出るようにさりげなく口を大きく開けてみたり喉のマッサージをしたり、頭の中で「三匹のこぶた」の話をおさらいしたりしていました。隣にいた方も(女性でしたが)口を開けたり閉じたりしていたので、同じことをしていたようでした。試験監督の人から見ると愉快な光景だったでしょう。

 

さて、「次の方」と呼ばれると、いよいよ試験会場に入ります。一応印象が大事なので、面接のようにドアをノックして失礼しますと言って部屋に入ります。ただそのあたりはあまり見ていないようで、荷物を壁際のテーブルにおいてイスに座るよう指示されます。私の試験官は2名で、仏のような顔をした優しそうなベテランの保育士という感じの人でした。座らされたイスの前には3~4つの子どもに見立てた子ども用のイスが置いてありました。

 

記憶があいまいですが、受験番号と名前を言ったら、お話の題名を言ってから話を始めるように指示されます。このとき試験官の手元のベルが鳴るまで話をするように言われたかもしれませんが、緊張のため記憶が定かではありません。私は「どうぞ」と言われると練習通りになるべく大きな声でハッキリと、子どもに見立てたイスに向かって話を始めました。

 

緊張はしていましたが、幸い途中で話が飛んだり、真っ白になるようなことはなく、練習通りにお話を最後まで言い切ることができました。そして手を合わせて「お~し~まい!」と言って試験官の顔を見上げると、試験官は仏の顔のまま停止していました。そのまま沈黙の時間が流れて5秒、「あれ?何だこの時間は??」と不安になった瞬間、試験官の手元のベルが鳴り、「お疲れさまでした」と声をかけられました。そうか、試験時間の3分が経過するまで子どもたちに話をし続けなければいけなかったのか。トラウマになるほど不安な5秒を過ごしてしまいました。

 

試験が終わって肩の荷が下り、晴れやかな気分で試験会場を出ると、もう外は夜でした。

 

シリーズ最終回に続きます。

40歳おじさんの保育士資格挑戦⑦

このテーマももう7回目です。今回は実技試験体験記その①です。

 

私は東京都で保育士試験を受験したので、試験会場は十条にある東京家政大学でした。集合時間はみんな同じだったので、電車を降りると受験生が列を組んで大学を目指していくので、様子を見て流れに乗っていけば大学に辿り着けるはずです。

 

受験生は当日の朝にオリエンテーションを受けることになっています。オリエンテーションの時間しか知らされていないので、実際の実技試験の開始時間と試験会場はオリエンテーションで判明します。東京家政大学は広いキャンパスにいくつも校舎が建っているので、地図を読むのが苦手な人は迷ってしまうかもしれません。ちなみに私は学生時代に何度か行ったことがあり、その頃とあまり変わっていなかったのでそれほど迷いませんでしたし、懐かしさで試験そっちのけで校門をバックに記念写真を撮ったりしていました。

 

オリエンテーションは注意事項だけなので15分程度で終わり、みんな一斉に各々の会場に大移動します。当日の資料が残っていないので正確ではありませんが、確か10時ごろに造形の試験があったと思います。

 

造形の試験は試験中に問題が発表される関係で(音楽と言語は事前に問題がわかっています。)、受験者は同じ時間に一斉に試験をします。知識が問われるような試験ではないので、試験前は色鉛筆が折れていないか、忘れ物はないかなどをチェックする以外にすることはありません。ただ一時間で絵を描き上げるにはスピードが大切なので、筆記試験同様集中力を上げるルーティーンをしました。

 

私が受験したときの問題は、室内で造形遊びをしている様子でした。突飛な問題ではなく、想定の範囲内だったため、当初の予定通り、おおまかな構図を決めて、保育士や園児、背景もあらかじめ決めていた服や髪型、床や壁にしました。いつも通り、公式通りの回答を作成したわけですが、時間は結構ギリギリで、色塗りがやや雑になってしまいました。しかし丁寧にやって色を塗りきらないよりも、すべて塗りきった方が絶対に得点は高いので、雑でも時間内に完成させました。

 

余談ですが、実技試験会場の受験生は圧倒的に女性が多かったです。受験生自体は大きな教室にぎっしり入っていたんですが、男性はちらほらという程度。私のようなおじさんは皆無、かと思ったんですが、なんと造形試験の隣に座っていた方は明らかに私より高齢の男性でした。おじさんというより、もう初老という感じのその方は、色鉛筆まで年季が入っており、布にくるんで持ってきていて、美術の先生のようでした。

 

さて、造形試験が終わると、私の場合言語の試験なのですが、長くなったので⑧に続きます。

40歳おじさんの保育士資格挑戦⑥

保育士試験では筆記試験に合格すると、実技試験に進みます。

 

私が受けたのは後期試験でしたから、10月中旬に筆記試験があって、11月下旬に結果発表があり、そして筆記試験の2週間後くらいの12月上旬に実技試験があります。実技試験は音楽、造形、言語の中から2種類を選択して受験します。

 

音楽は事前に課題曲が与えられ、それをピアノやギターなどで弾きながら歌うというもの。曲は2曲で、子どもの前で歌うこと想定して、子どもが歌いやすいように伴奏しつつ、自分も笑顔で子どもの顔を見ながら歌うというもの。

 

造形は、試験の際に文章で示された課題に沿った絵を描くこと。絵は解答用紙の枠いっぱいを使って色鉛筆で色を塗り、おたよりなどに描くことを想定して、わかりやすい構図と活き活きとした人物描写が求められる。

 

言語は事前に与えられた3つの物語のうち1つを3分間で話すというもの。3歳児20人に向けてお話をすることを想定し、子どもの顔を見ながら、わかりやすく、声やテンポ、抑揚をつけて興味を引くように話すというもの。

 

これまでも書いたように、私は音楽に関してはコンプレックスの対象でしかありません。人間の認知の方法には視覚優位と聴覚優位とあるらしいですが、私は聴覚不利なのです。正確に歌うことすらできないのに、楽器を演奏するなど不可能すぎる。ということで必然的に造形と言語で勝負するしかありませんでした。保育士の大学や専門学校に行くとピアノは必修らしいのですが、おそらく私のような人でも適材適所で保育士になれるように、資格試験では必須ではないのでしょう。ありがたい話です。

 

さて、実技試験に向けてどんな準備が必要でしょうか。科学技術の進歩した現代には「youtube」という素晴らしい情報収集方法があります。「保育士試験 実技試験」と入力すれば攻略法がわんさかと出てきますし、過去問の模範解答も出てきます。これを見てポイントを押さえて練習すればまったく問題ありません。逆にyoutubeがない時代はどうやって独学で乗り越えたのか不思議になります。

 

造形については、いくつかのポイントとコツをつかめば、あとはいかに早く描くかということになります。課題は「保育士〇人と子ども〇人が✕✕しているところ」という感じで出ます。ポイントとしては、まず課題を外さないこと。保育士や子どもの人数や、状況がわかる小物、屋内か屋外かをきちんと描くことは必須です。大切なのは他人より上手に描くことではなく、合格点である60点を取ることですから、課題に忠実に描くことが大切です。

 

しかし逆に言うと、保育士や子どもは必ず課題に出てきますから、練習段階であらかじめ保育士や子どもの形を決めておくと楽です。保育士は青のエプロンをしているとか、子どもは青い服の男の子と赤い服の女の子がいるとか決めておきます。試験時間中にいちいち服の色や髪型などを考えていると時間をロスします。今は男性保育士もいるとか、エプロンをしない保育園の方が多いとか、余計な考えを入れるとややこしくなりますから、心を鬼にしてステレオタイプ化した方が伝わりやすい絵になります。大切なのは60点を取ることなんです。

 

また課題は大体園舎内か園庭なので、それぞれの情景も決めておくと楽です。私の場合、園舎内の床はフローリングで黄緑、壁は緑の腰壁があって、うすだいだい色の壁紙、窓が一つあって窓の外には木が見える。園庭は鉄棒と木が数本立っていて、その外が灰色のフェンスでおおわれている。空は水色で地面は薄茶色。造形の課題では解答用紙をすべて塗りつくさなければいけないので、考えずに一気に塗りつくせるように準備しておくことが時間短縮のコツです。

 

次に、言語については、3つの課題のうち一つを選ぶのですが、私の場合「3匹のこぶた」にしました。理由は絵本を読み返すまでもなく内容を記憶していることと、物語が伝えたいことがはっきりしているからです。要は3匹のこぶたでは「時間をかけてコツコツ努力することが大事だ」ってことが言いたいわけで、そこを大事にお話すればいいわけです。あとはオオカミにフォーカスして、やってくるところや逃げ出すところをおおげさに話せば、抑揚がついて面白く聞こえます。

 

練習方法としては、やはり実際に誰かに聞いてもらうことが一番です。言語の試験における一番の敵は「緊張」です。試験のチャンスは一回ですから、緊張で話の内容が飛んでしまったり、声や抑揚が小さくなってしまったらおしまいです。できれば色々な人に聞いてもらうのがいいでしょう。私も緊張しやすい人ですから、緊張しなくなるということはないと思いますが、緊張に慣れることはできると思います。

 

さて、次はいよいよ保育士試験最終回。実技試験当日です。