ひろしせんせーのひとりごと。

44歳の脱サラ保育士ひろしせんせーが書いています。

保育ソーシャルワーカーへの道(期待されること編)

保育園におけるソーシャルワーカー(保育ソーシャルワーカー)に期待される役割とは何か。

「提案編」で述べたように、ソーシャルワーカーの業務は大きく分けて、①保護者への相談支援と②関係機関との連携である。では、その2つが保育園運営のどのような場面で必要となるのか。具体的な場面を3点挙げる。

 

(1)児童虐待

厚生労働省の要支援児童等対応推進事業の対象である「要支援児童等」は児童福祉法に定義される要支援児童を指している。具体的には「保護者の養育を支援することが特に必要と認められる児童(第八項に規定する要保護児童に該当するものを除く。)」とあり、つまり虐待を受けて要保護児童になる手前の児童である。

児童虐待の類型は厚生労働省より4類型が示されているが、このうち身体的虐待と性的虐待については、発見次第加害保護者からの分離が必要となるため、地域の要保護児童対策担当部署(東京都特別区では児童相談所設置の有無によって通告先が異なる。2021.5現在、世田谷、江戸川、荒川、港区は児相設置済み。また政令指定都市には児相設置義務がある。児相設置済みの自治体なら児相が通告先、児相未設置の特別区は子ども家庭支援センター、その他の自治体の多くは市町村の児童福祉所管部署が通告先。)に通告し、以降は指示に従うことになる。

一方、心理的虐待とネグレクトについては、虐待の確証と程度、それによる子どもへの影響の因果関係の立証が困難なため、関係機関との継続した連携が不可欠となる。ただし、継続した支援における児童相談所等と保育園の差とは、専門性以外にない。逆に、毎日子どもと保護者を見ることができる保育園のリアルでスピード感のある対応が可能である点は、児童相談所等にはない特長である。つまり専門性を活かした保護者支援を児童相談所等が担当し、日々の保護者の様子やそれに伴う支援については保育園が行い、互いの情報連携をすることで適切な対応が可能である。

その際、保育所において留意すべきは、児童相談所等が行う専門的支援との連携であり、互いの機関において心理的虐待やネグレクトに至る原因について共有し、その原因を解消するための支援を行うこと、つまり児童虐待予防のためにすべての機関が同じ方向性で支援を行うことである。そのためには、保育園に一定度の専門的知識が必要であることは言うまでもなく、保育ソーシャルワーカーには関係機関との連携を行う際の専門性も求められる。

 

(2)発達支援

 保育園における子どもの障害児支援への繋げ方はおおむね次のとおりである。

①園生活における「気になる子」の発見。②保護者への説明。③心理士等の見立て。④保護者へ発達支援機関の提案。⑤発達支援機関へ連絡調整。

保護者への説明を丁寧に時間をかけて行うことは大原則である。保育士の見立てで障害支援ができるわけでも診断がつくわけでもない。しかし保護者には子どもの現状を正しく伝え、理解を得る必要がある。そのためには、なるべく早い段階で少しずつ情報を与えていかなければ、定期健診等の大切な時期に保護者に一度に情報を詰め込むことになり、反発を招いて余計に時間をかけることになる。よって、保護者には「気になる」と判断した段階で少しずつ情報を与えていく必要がある。

多くの場合、保育園で心理士に定期的にアドバイスをもらっていたり、自治体から巡回指導が入っていたりする。心理士は児童発達の専門職であり、多くの場合、療育機関での臨床経験もあるため、心理士に療育等の提案をすべきかアドバイスを受けるべきである。その際に重要なのは、エピソードを記録しておくことである。児童発達の専門職とはいえ、数時間の様子を見ただけで判断するのは難しい。そこで、より多くの情報をもって判断してもらえるよう、保育士の主観をなるべく排除した客観的なエピソードを集めておき、併せて判断してもらえるように準備しておくことが大切である。

保護者の理解が得られて、発達支援機関に相談に行くことになったら、ようやくソーシャルワークのスタートラインである。保育園では「保健所へ相談に行く」イコール「療育に繋がる」と期待を持ってしまうことも多いが、むしろ何の情報もなく来た相談者にその場で療育を勧めることなど常識的にあり得ないと考えるべきだろう。保育園が保護者に信頼関係を築きあげてきたのと同様に、発達支援機関も保護者と信頼関係を築いていく必要がある。ただ、その時間も子どもは成長していく。もっと早く療育を受けられないか。私はその最短ルートは保育園による相談の伴走だと考える。

記念日においしい店でディナーをしたいと考える。そこで「おいしいと評判」の店を探そうとする。人によってはネットで、人によっては友達に聞いて店を探すはずである。友達に聞いて店を探すとしたら、グルメで色々な店を知っている人や、自分の好みをよく理解している友達の意見を参考にするはずである。つまりお店のことと自分のことをよく理解している(=信頼できる)人の意見によって、お店の信頼度が上がると言える。これを保護者と保育園、発達支援機関に当てはめると、保護者は保育園(信頼できる人)の意見があれば、発達支援施設(お店)の信頼度を上がるということになる。保育園が発達支援機関と連携しながら保護者へ説明することで、療育への進み方は全くスピード感が異なると考える。

また療育がスタートしてからも保育園との連携は不可欠である。療育機関では個別支援計画という、個人に併せた計画を立案し、それに沿った療育を実施する。障害特性は一人ひとり異なっている上、療育に通うことで急激に改善するものではない。特性を本人や家族、周囲の人が理解し、その子が生活しやすいようにするのが療育の基本である。とするならば、療育で行っていることや目標を保育園が共有しなければ、本人にとって混乱するだけで、よりよい効果が現れない。療育機関と保育園を併用する場合、必ず両社は連携しなければならないが、保育園にソーシャルワーカーが配置されていない現状では、療育側からの提案がなければ連携できないのだ。

 

(3)生活支援

「提案編」において、子育て力の最大化のためには「保護者の健康」「生活環境」「経済基盤」の満足が必要と述べた。しかし、現実的には保護者が子どもに関わること以外のことに注意を向けなければならないことは多い。多くの場合、子どもの成長発達に影響を与えるほどではないが、子どもにストレスを与えることは少なくはない。そしてその要因は離婚、ひとり親、失職、介護、きょうだい関係など、多様化している。これらは保育園での相談で解決するものではないが、保護者が安心できなければ子どもへのストレスは続いていき、成長発達を阻害する恐れもある。したがって保育園で行わなければならない支援は、適切な機関の紹介である。適切な機関を紹介し、解決の糸口が見えてくると、保護者は安心して子どもと向き合えることになる。そのためには、必要に応じて連絡調整や同行支援も行う必要がある。

 

(4)職場環境や職員のケア

 期待される役割として、最後に職員研修や職員ケアを挙げる。

ソーシャルワーカーの活動範囲は浅くても広くほど良い。職員の人権教育はもちろん、保護者対応や子育てに関する制度についても研修をすることができよう。また、ソーシャルワーカーは主に保育ではなく保護者支援を行う立場から、保護者から見た客観的意見を述べるできるはずであり、保育園運営において一つの意見として意義があると考える。

また、保育園職員も保護者同様、相談を必要とする職員が発生するのは当然である。保育園は、複数の園を経営する大手法人も存在するが、基本的には十数人から数十人の小さな組織で日々運営されており、職員が長期間抜けるのは運営する上でダメージとなる。メンタルヘルスは看護師の領域として、親の介護や小中学生の子どもの相談、簡単なファイナンシャルプランまではソーシャルワーカーの領域と言える。

 

児童虐待の発生率についてはデータがないが、私の経験上、支援の必要な家庭の発生率は1~3%程度である。また、発達障害の有病率はおおむね8~9%と言われている。(厚生労働省「改正発達障害者支援法資料」)両者には重複する家庭もあり、また虐待家庭の入園には児童相談所等が関与し、入園先を行政直営園にすることもあることから、保育ソーシャルワーカーの対象児童はおよそ10%以下と言える。100名定員の大規模な保育園でも数名程度、家庭数ならさらに絞られることになる。高齢者における居宅ケアマネジャーの配置基準は35人に1人となっており、ケースワークを行う基準としては30件程度が適切と考えられている。そう考えると、保育ソーシャルワーカーが1施設で活動するには件数が少なすぎることになる。

そのため、要支援児童等対応推進事業では基幹保育所が巡回することになっているが、私は以下の2点により巡回方式では実効性が乏しいと考える。

1点目は、連携についての課題である。上記の計算からすると、在園児数500人程度を対象とすれば保育ソーシャルワーカー1名分の仕事量として適切と言うことにとなる。2020年度の全国の保育所等利用児童数は297万人。保育所等の数は(認定こども園や小規模保育事業所も含まれているが)全国で37,652所。1所平均78人と考えると、在園児500人では6~7所となる。虐待児童には入所施設に偏りがあることを考えても、巡回施設数が増えれば物理的に時間がかかることから、対象施設数は10所が限度だろう。

東京都練馬区だけでも入所児童数は1万9000人以上おり、保育ソーシャルワーカー1人につき在園児童数500人を対象とした場合、38人必要となる。したがって行政施策として保育ソーシャルワーカーを配置するとなると、ただでさえ都道府県児相と市区町村間で二重構造となっている上にさらに1機関を増やすようなもので、効率的な連携の実現には程遠くなる。

2点目としては、保育ソーシャルワーカーが対保護者対応の前線に立つことができない点である。巡回型のソーシャルワーカーでは問題が発生した際にすぐに保護者対応を行うような即時性に欠ける。したがって自然と各園を巡回して園のソーシャルワークに対してコンサルテーションを行うことが仕事になる。直接保護者対応を行うのならまだしも、各園のソーシャルワークに対してコンサルテーションを行うには相当の経験値と専門性を有している必要がある。果たしてそのような人材がそう簡単に確保できるだろうか。

 

そのため、私は各園で保育ソーシャルワーカーを配置するべきと考える。各園に配置するとなると、上記のように数人に対して1人の配置となり、効率的ではない。そのため、同一法人で複数園を運営する母体の大きな園についてのみ、保育ソーシャルワーカー1人につき最大5施設500人程度の縛りを設けて複数園での併任を認める配置加算を設けるべきである。それだけでもかなりの園に独自にソーシャルワーカーを配置することができるはずである。

経営している園が1園のみという法人や小規模保育事業所運営法人については上記の配置加算はできないが、より多くの園で独自に配置することが理想的であるため、地域や業態に応じた柔軟な法整備が望まれる。